犬を飼っている方が引越しをするとき、荷造りや新居の準備と並んで欠かせないのが行政への届出です。犬の登録は狂犬病予防法で義務づけられており、住所が変わったら届け出るところまでが飼い主の責任になります。
ところが、この届出は「役所に1回行けば終わり」とは限りません。マイクロチップを装着している犬なら別の登録機関への手続きも必要ですし、市区町村をまたぐ引越しかどうかで流れも変わります。知らないまま放置していると、狂犬病予防注射の案内が届かなくなるといった不都合が出てきます。
この記事では、犬と一緒に引越しをするときに必要な届出を、順番と期限がひと目でわかるように整理しました。あわせて、新居での犬の受け入れ準備や、かかりつけ医の引き継ぎについても触れていきます。

犬の引越しで必要な届出は大きく3つ
まず全体像を押さえましょう。犬と引越しをするときにやるべきことは、次の3つに集約されます。
| やること | 届出先 | 期限 | 費用 |
|---|---|---|---|
| 登録事項変更届 | 市区町村(保健所・生活衛生課など) | 30日以内 | 原則無料 |
| マイクロチップ情報の変更届出 | 環境省の指定登録機関 | 30日以内 | 無料 |
| 狂犬病予防注射済票の確認 | 市区町村 | 年1回の接種時 | 済票交付手数料 |
ポイントはどちらの届出も「30日以内」という点です。車やバイクの15日より少し余裕がありますが、引越し後の1か月はあっという間に過ぎるので、荷ほどきが落ち着いたら早めに動きましょう。
1. 市区町村への登録事項変更届
犬は狂犬病予防法に基づき、生涯に1回、飼い主の住む市区町村に登録することが義務づけられています。引越しで所在地が変わった場合は、変更の届出が必要です。
同じ市区町村内で引越した場合
役所の担当課(自治体によって保健所・生活衛生課・環境課など名称が異なります)に、住所変更の届出をするだけで完了です。鑑札の番号はそのまま引き継がれ、新しい鑑札は発行されません。
自治体によっては、転居届を出す際に窓口で犬の登録も一緒に処理してくれることがあります。窓口で「犬を飼っています」と伝えてみてください。
別の市区町村へ引越した場合
この場合は新住所の市区町村に届け出るのが基本です。旧住所の自治体に廃止の届けを出す必要は原則ありません(新住所の自治体から旧住所側へ連絡が回る仕組みになっています)。
持っていくものは次のとおりです。
- 旧住所で交付された鑑札……これを返納して、新しい自治体の鑑札を受け取ります
- 狂犬病予防注射済票……最新のもの
- 飼い主の本人確認書類
- 印鑑……自治体によっては不要
新しい鑑札の交付手数料は、市区町村をまたぐ引越しであっても原則無料です。ただし鑑札を紛失している場合は再交付手数料(1,600円程度が一般的)がかかります。引越しの荷造り中に紛失しやすいので、犬の書類はひとまとめにして手荷物で運びましょう。
鑑札・注射済票・登録証明書をまとめて入れておく書類ケースを1つ決めておくと、窓口で慌てずに済みます。
海外から帰国した場合・海外へ行く場合
国境をまたぐ移動の場合は、動物検疫所での手続きが別途必要になります。国や地域によって求められる証明書やマイクロチップの規格、待機期間が大きく異なるため、動物検疫所に早い段階で相談してください。数か月単位の準備が必要になることもあります。

2. マイクロチップの登録情報を変更する
動物愛護管理法の改正により、販売業者から迎えた犬・猫にはマイクロチップの装着と情報登録が義務づけられています。すでに飼っている犬への装着は努力義務ですが、装着して登録している場合は、住所が変わったときの変更届出も義務になります。
手続き先と方法
届出先は市区町村ではなく、環境省が指定した登録機関です。オンラインで手続きでき、変更の届出に手数料はかかりません(新たに登録する場合や所有者が変わる変更登録の場合は、オンライン申請で400円、紙の申請で1,400円程度の手数料が必要です)。
登録時に受け取った「登録証明書」に記載された暗証記号とマイクロチップ番号が必要になるので、これも荷物に紛れないよう保管しておきましょう。制度の詳細や手続きの入口は、環境省「犬と猫のマイクロチップ情報登録」の公式サイトで確認できます。
市区町村の登録との関係に注意
自治体によっては、マイクロチップを装着した犬について、マイクロチップの登録が狂犬病予防法上の登録とみなされる特例制度に参加しています。この場合、鑑札の代わりにマイクロチップが機能し、市区町村への別途の登録が不要になります。
ただし、引越し元と引越し先で特例制度への参加状況が違うことがあります。「前の自治体では鑑札が要らなかったのに、新居では必要だった」という食い違いが起こり得るので、新住所の自治体の案内を必ず確認してください。
マイクロチップの登録情報が古いままだと、迷子になったときに保護施設から連絡が取れません。マイクロチップの本来の目的は個体識別と飼い主への連絡なので、住所や電話番号が変わったら必ず更新してください。制度上の義務であると同時に、犬を守るための実用的な手続きです。
マイクロチップは専用の読み取り機がないと情報がわからないので、新しい住所と電話番号を刻んだ迷子札を首輪に付けておくのも、ひとつの備えになります。
3. 狂犬病予防注射と注射済票
狂犬病予防法では、生後91日以上の犬に年1回の予防注射が義務づけられています。接種後は市区町村から「注射済票」の交付を受け、鑑札とあわせて犬に装着するのが原則です。
引越し時期と接種時期が重なったら
集合注射(自治体が会場を設けて実施するもの)は春に行われることが多く、引越しシーズンと重なりがちです。旧住所で接種を済ませているなら、その注射済票を新住所の窓口に持参すれば、新しい自治体の注射済票に切り替えてもらえます。
まだ接種していない場合は、新住所で動物病院を探して接種し、その証明書を持って役所へ行く流れになります。動物病院で接種した場合、病院が代行して済票交付の手続きをしてくれることもあるので、受付で聞いてみましょう。
注射済票の交付手数料
注射済票の交付には手数料がかかり、550円程度としている自治体が多く見られます。動物病院での接種費用は別途必要で、金額は病院によって異なります。詳しい金額は各自治体や動物病院にご確認ください。
賃貸物件なら「ペット可の条件」の確認を忘れずに
引越し先が賃貸の場合、ペット可であっても細かい条件が定められていることがほとんどです。契約前・入居前に次の点を確認しておきましょう。
- 飼育可能な頭数……「小型犬1頭まで」といった制限があるケース
- 体重・体高の制限……「体重10kg以下」など
- ペット飼育に伴う敷金の増額……敷金1か月分の上乗せが一般的
- 共用部での抱っこ移動の義務……エントランスやエレベーターでのルール
- 退去時の原状回復の特約……消臭・消毒費用の負担範囲
特に退去時の特約は、後々の金額に直結する重要なポイントです。契約書のペット飼育に関する条項は、入居前に一度しっかり読んでおくことをおすすめします。国土交通省の賃貸住宅に関する情報ページには、原状回復の考え方をまとめたガイドラインも公開されています。
新居に犬を迎えるための準備
引越し当日の過ごし方
作業中は玄関やドアが開けっぱなしになり、脱走のリスクが高まります。作業スペースから離れた部屋にクレートごと隔離するか、可能であればペットホテルや知人に預けるのが安全です。作業員の出入りで犬が興奮してしまうこともあるため、無理に立ち会わせる必要はありません。
新居で最初に整えるもの
- 使い慣れたベッド・ブランケット・おもちゃを洗わずにそのまま持っていく(においが残っているほうが落ち着きやすいとされます)
- クレートやサークルを最優先で設置し、犬の居場所を先に作る
- フードと水の器は旧居と同じ配置にする
- 脱走経路になりそうな窓・ベランダ・玄関まわりを点検する
玄関やベランダへの飛び出しが心配な間取りなら、置くだけ・突っ張り式のペットゲートで区切っておくという手もあります。賃貸の場合は壁を傷つけにくいタイプを選ぶと安心です。
散歩コースは少しずつ広げる
新しい土地はにおいも音も違うため、最初から長距離を歩かせず、短いコースから慣らしていくのが一般的なやり方です。近所の交通量や、犬の多い時間帯なども並行して把握していきましょう。
慣れない道を夕方以降に歩くなら、車や自転車から見えやすい反射材付きのリードにしておくと安心感が違います。

かかりつけ動物病院の引き継ぎ
引越しで通院先が変わる場合、これまでの診療情報を新しい病院に引き継げるようにしておくと安心です。
もらっておきたい書類
- ワクチン接種証明書(狂犬病・混合ワクチン)
- フィラリア・ノミダニ予防の投薬記録
- 持病がある場合の診療情報提供書(紹介状)
- 過去の血液検査やレントゲンの結果
慢性的な疾患で治療を続けている場合は、旧かかりつけ医に紹介状を書いてもらうと、新しい病院での初診がスムーズになります。処方薬が切れないよう、引越し前に余裕を持って処方してもらうことも忘れずに。
もらった書類や接種の記録は、ペット用の健康手帳にまとめておくと新しい病院で説明しやすくなります。
新しい病院の探し方
夜間・救急に対応している病院が近くにあるかは、引越し前にチェックしておきたいポイントです。日常の通院先と、いざというときの救急対応先を分けて把握しておくと安心できます。
犬との引越しに関するQ&A
Q. 届出をしないとどうなりますか?
A. 狂犬病予防法では、登録や予防注射に関する義務に違反した場合の罰則が定められています。それ以上に現実的な問題として、予防注射の案内が旧住所に届き続けるため接種忘れにつながります。犬の登録は自治体が飼育実態を把握するための仕組みでもあるので、忘れずに届け出ましょう。
Q. 鑑札をなくしてしまいました。引越し前に再交付が必要ですか?
A. 市区町村をまたぐ引越しの場合、旧鑑札を返納する流れになるため、紛失していると新住所での手続きで確認に時間がかかることがあります。可能であれば旧住所で再交付を受けておくとスムーズですが、間に合わない場合は新住所の窓口に事情を伝えて相談してください。
Q. マイクロチップの登録証明書をなくしました。
A. 登録証明書に記載された暗証記号がないとオンラインでの変更手続きができません。指定登録機関に問い合わせて、再発行や本人確認による手続きの方法を確認してください。マイクロチップ番号は動物病院で読み取ってもらうこともできます。
Q. 引越しのストレスで犬の食欲が落ちてしまいました。
A. 環境の変化で一時的に食欲や排泄のリズムが乱れることはよくあります。数日で戻ることも多いですが、食べない状態が続く、下痢や嘔吐を伴う、元気がまったくないといった場合は、自己判断せず動物病院で診てもらってください。
Q. 引越し業者に犬を運んでもらえますか?
A. 引越し業者は基本的に生き物を荷物として運ぶことができません。多くの業者はペット輸送を専門業者に取り次ぐ形で対応しています。自家用車で運べる距離なら自分で運ぶのがいちばん負担が少ない方法です。
Q. 一戸建てから集合住宅へ引越します。無駄吠えが心配です。
A. 集合住宅では生活音が伝わりやすく、これまで問題にならなかった鳴き声が近隣トラブルにつながることがあります。入居時に両隣と上下階へ挨拶をしておくこと、そして必要に応じてしつけの専門家に相談することを検討してみてください。
Q. 犬の登録は「引越し先に着いてから」でいいですか?
A. はい、新住所の市区町村に届け出る形なので、引越し後の手続きになります。転入届と同じタイミングで動けるとスムーズです。ただし30日という期限があるので、後回しにしすぎないよう気をつけてください。
まとめ
犬と引越しをするときの届出は、市区町村への登録事項変更届と、マイクロチップの登録情報変更の2本立てです。どちらも期限は30日以内で、費用は基本的にかかりません。鑑札と注射済票、マイクロチップの登録証明書は、荷物に紛れないよう手荷物で管理するのがいちばん大事なコツです。
行政手続き以上に大切なのが、犬自身が新しい環境に落ち着けるようにする配慮です。使い慣れたものを持っていく、居場所を先に作る、散歩は少しずつ広げる。こうした小さな積み重ねが、新生活の立ち上がりを助けてくれます。
やることを紙に書き出して、ひとつずつ消していきましょう。手続きが終われば、あとは新しい街を一緒に散歩するだけです。


