引越しの荷物の中で、失ったときのダメージがもっとも大きいもののひとつがパソコンです。本体が壊れるだけならお金で解決できますが、中に入っている写真・仕事のファイル・制作データは、お金では取り戻せません。
しかも見落としがちなのが、引越し業者はパソコンの中のデータを補償してくれないという点です。国土交通省が定める標準引越運送約款では、パソコンなどの精密機器は特別な取り扱いを要する荷物とされており、多くの業者がデータの消失について補償の対象外としています。
この記事では、引越し前にやっておくべきバックアップの手順と、パソコンを安全に運ぶための梱包方法を順に解説します。バックアップの「見落としがちな対象」も一覧にまとめたので、作業前のチェックリストとして使ってください。

パソコンの破損・データ消失は補償されないことが多い
引越し業者との契約は、標準引越運送約款をベースにしているのが一般的です。この約款では、貴重品や壊れやすい物品について、事前の申告がなければ責任を負わないという趣旨の規定が置かれています。
実務上も、多くの引越し業者が見積書や約款の中で「パソコンのデータについては補償できない」と明示しています。本体の物理的な破損についても、申告なしに段ボールへ入れていた場合は補償が受けられないケースがあります。
見積もりの段階で「パソコンがあります」と必ず申告してください。申告しておけば、専用の緩衝材や精密機器向けの梱包資材を用意してもらえることがあります。逆に黙って段ボールに入れておくと、万一のときに交渉の余地がなくなります。約款の内容は国土交通省「標準運送約款」のページから、最新版の標準引越運送約款で確認できます。
まずやるべきはバックアップ
梱包の話の前に、必ずバックアップです。梱包がどれだけ完璧でも、落下や水濡れの可能性はゼロにできません。
基本は「二重化」で考える
バックアップの世界では、データを3つ持ち、2種類の媒体に保存し、1つは別の場所に置くという3-2-1の考え方が知られています。引越しに当てはめるなら、次のような形が現実的です。
- パソコン本体……元データ
- 外付けHDD/SSD……丸ごとバックアップ
- クラウドストレージ……なくしたら取り返しがつかないファイルだけ
ポイントは、外付けHDDをパソコンと同じ段ボールに入れないことです。同じ箱に入れていたら、落下したときに両方いっぺんに壊れます。外付けHDDは手荷物で運ぶのが鉄則です。
外付けHDD・SSDへのバックアップ
インターネット環境に左右されず、容量あたりの単価も安いのが利点です。数百GB〜数TBのデータでも短時間で処理できます。引越しのように「一時的に丸ごと保存しておきたい」場面には向いた方法です。
WindowsとMacには、それぞれ標準のバックアップ機能が用意されています。
- Windows……「ファイル履歴」や「バックアップと復元」で外付けドライブへ保存できます。近年のWindowsでは、ファイル・設定・アプリなどをまとめて扱う「Windows バックアップ」も用意されています。使い方はMicrosoftの公式サポートページで解説されています
- Mac……「Time Machine」で外付けストレージへ自動バックアップできます。手順はAppleのサポートページにまとまっています
クラウドストレージの併用
OneDrive、Googleドライブ、iCloud、Dropboxといったサービスに、重要なファイルだけを上げておく方法です。パソコンが壊れても、別の端末からアクセスできるのが大きな利点になります。引越し先でネット回線が開通していれば、新しいパソコンからでもすぐに続きの作業に戻れます。
ただし、容量が大きいと無料プランでは足りず、アップロードにも時間がかかります。引越しの前日に始めても間に合わないことがあるので、1〜2週間前から少しずつ進めておきましょう。

バックアップし忘れやすいデータ一覧
「マイドキュメントを保存したから大丈夫」と思っていると、あとで困るのがこのあたりです。
| 対象 | なぜ忘れやすいか |
|---|---|
| ブラウザのブックマーク・保存パスワード | アカウント同期していないと本体だけに残る |
| メールソフトのデータ | 受信済みメールがローカル保存になっている場合がある |
| 日本語入力の変換辞書 | 長年の学習内容が消えると入力が不便になる |
| ソフトのライセンスキー・認証情報 | 再インストール時に必要。購入メールを探しておく |
| 二段階認証アプリ | 端末を移すと各サービスにログインできなくなる恐れ |
| デスクトップ上のファイル | 「ドキュメント」フォルダに入っていない |
| ダウンロードフォルダ | 一時置き場のつもりが重要ファイルの保管場所に |
| ゲームのセーブデータ | クラウドセーブ非対応のタイトルは本体保存 |
| 年賀状ソフトの住所録 | 専用フォルダに入っていて見落としやすい |
一部のソフトは、インストールできる台数が決まっていて、パソコンを買い替える前に「認証解除(ディアクティベート)」が必要です。引越しを機に新しいパソコンへ乗り換える予定があるなら、旧機を手放す前に必ず解除しておきましょう。解除せずに処分すると、ライセンスが使えなくなることがあります。
パソコンの梱包手順
デスクトップパソコンの場合
- シャットダウンしてから電源ケーブルを抜く……スリープではなく完全にシャットダウンします
- ケーブル類を全部外す……どこに挿さっていたか、スマホで写真を撮っておくと復旧が楽です
- 本体を緩衝材で包む……エアキャップ(プチプチ)を2重に巻き、テープで固定します
- 購入時の箱があれば最適……なければ本体より一回り大きい段ボールを用意します
- 隙間を全部埋める……箱の中で動かないようにするのが最重要です
- 「精密機器・天地無用」と大きく書く……上下の向きも明記します
ノートパソコンの場合
ノートは自分で手荷物として運ぶのが安心です。専用のインナーケースに入れ、リュックやトートに入れて持ち歩きましょう。段ボールに入れて業者に預けるくらいなら、多少かさばっても手持ちにする価値があります。
モニター・周辺機器
液晶モニターは画面を直接押さえないよう、緩衝材を厚めに巻いて立てた状態で運びます。プリンターはインクカートリッジを装着したまま運ぶと漏れることがあるため、メーカーの案内を確認してください。
運び方は「自分で運ぶ」が基本
自家用車で運ぶ場合
助手席や後部座席の足元に置き、シートベルトや荷物で固定します。トランクは振動が大きく温度も上がりやすいため、可能なら避けましょう。夏場の車内放置は厳禁です。
宅配便で送る場合
パソコン専用の梱包キットを扱っている配送サービスもあります。輸送中の保険が付いているものもあるため、遠方への引越しで自分で運べない場合の選択肢になります。
引越し業者に頼む場合
見積もり時に申告し、精密機器向けの梱包オプションがあるか確認しましょう。有料でも、専用の資材と扱いで運んでもらえるなら検討する価値があります。

新居に着いてからの立ち上げ
すぐに電源を入れない
寒い日や湿度の高い日に移動すると、内部で結露が起きることがあります。到着後すぐに電源を入れず、室温になじむまで数時間置いてから起動するのが安全です。特に冬場の長距離移動では意識しておきたいポイントです。
電源環境の確認
タコ足配線での過負荷は火災の原因になります。デスクトップとモニター、プリンターをまとめて1つのコンセントから取る場合は、容量に余裕があるか確認しましょう。雷サージ対応の電源タップを使うのも有効です。
インターネット回線の手配は早めに
光回線の移転や新規開通は、申し込みから工事まで数週間かかることがあります。引越しシーズンはさらに待たされることも珍しくありません。パソコンが無事に動いても、ネットがつながらなければ仕事になりません。引越し日が決まったらすぐに回線の手続きを始めるのが正解です。開通までのつなぎとして、モバイルルーターやスマホのテザリングを想定しておくと安心できます。
パソコンの引越しに関するQ&A
Q. バックアップにはどれくらい時間がかかりますか?
A. データ量と接続方式によりますが、外付けSSDへ数百GBを保存する場合、1時間前後で終わることが多いです。クラウドへのアップロードは回線速度に左右され、数百GBだと数日かかることもあります。日数に余裕を持って始めましょう。
Q. 外付けHDDを持っていません。何を買えばいいですか?
A. パソコンの内蔵ストレージ容量の2倍程度を目安にすると余裕があります。持ち運ぶならポータブルSSDが軽くて衝撃に強く、据え置きで大容量が必要ならHDDのほうが割安です。引越し後もそのままバックアップ用として使い続けられます。
Q. 引越しを機にパソコンを買い替えます。旧機はどう処分すればいいですか?
A. パソコンは資源有効利用促進法の対象で、メーカーによる回収の仕組みがあります。処分前に必ずデータを消去してください。ファイルを削除しただけでは復元できてしまうため、専用ソフトでの消去や、ストレージの物理的な破壊が推奨されます。自治体によっては小型家電の回収ボックスを設けています。
Q. デスクトップの箱を捨ててしまいました。
A. 家電量販店やホームセンターで、パソコン用の梱包資材を購入できます。エアキャップと適切なサイズの段ボールがあれば十分対応可能です。箱の中で本体が動かないよう、隙間を紙や布で完全に埋めるのがコツです。
Q. 自作パソコンで、中のパーツが心配です。
A. 大型のCPUクーラーやグラフィックボードは、輸送中の振動でマザーボードに負担がかかることがあります。心配な場合は取り外して個別に梱包し、新居で組み直すという方法もあります。取り外す前に内部の写真を撮っておきましょう。
Q. 引越し当日もパソコンを使いたいのですが?
A. ノートパソコンを手荷物にしておけば、新居で電源さえ確保できればすぐ使えます。ネット回線が未開通なら、スマホのテザリングでしのぐことになります。在宅勤務の方は、この日の業務をどうするか事前に調整しておきましょう。
Q. データのバックアップを外部に頼めますか?
A. パソコン修理店やデータ移行サービスを提供する店舗で、有料の代行サービスを扱っていることがあります。パソコンの操作に不安がある方は選択肢になりますが、個人情報を預ける形になるため、業者の信頼性は慎重に確認してください。
まとめ
引越しでのパソコン対策は、優先順位がはっきりしています。まずバックアップ、次に梱包、そして運び方です。データは業者の補償対象外になることが多いため、守れるのは自分だけと考えておきましょう。
外付けHDDへ丸ごと保存し、重要なファイルはクラウドにも上げる。外付けHDDはパソコンとは別のカバンで運ぶ。この二重化ができていれば、最悪の事態は避けられます。ブックマークや認証アプリといった見落としやすいデータのチェックも忘れずに。
そして意外な落とし穴が、インターネット回線の手配です。工事まで数週間かかることもあるので、引越し日が決まったらすぐ動き出してください。



